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写真:梅佳代 文:坂本亜里 |
『ばかのハコ船』『リアリズムの宿』で一躍注目集め、『リンダ リンダ リンダ』のヒットで若き天才とも呼ばれた山下敦弘監督。これまで青春映画を撮り続けてきた山下が、二十代最後の作品としてカメラを向けたのは、あるひとつ町だった。
コピーバンド、女子高生、ブルーハーツをキーワードに、青春の熱さと儚さを確かに捉えた前作『リンダ リンダ リンダ』。それまで山下敦弘の作品といえば、クスクス笑いと絶妙の間で魅せるオフビートの感触がトレードマークだった。それが『リンダ リンダ リンダ』では、表現としてはストレートな、普遍的な学園ドラマを作り上げた。「『リンダ〜』では、初めて一緒に仕事をする人たちと映画を撮って、演出するにも女子高生のこともよく分からないし、最初はもっとストレスを感じるのかなと思ったんです。けど、やってみるとすごく勉強になったし“俺もこういうことができるんだ”“ああいう語り口もいいんだな”と思いました。今までの自分の作品は、男二人が海辺を歩いて終わりとか、銀行強盗しようとして終わるとかそういうのばっかりだったので(笑)。最後に歌を歌って、晴れやかに終わるっていうのも実感としてアリなんだと思ったんです」
最新作『松ヶ根乱射事件』は、その『リンダ〜』の撮影が行われている頃に、脚本の準備が進んでいたものだ。彼はこの二作をスターウォーズに例えて言う。「リンダがジェダイなら、松ヶ根はダースベーダーだ」と。
「『松ヶ根〜』の準備をしている時、『リンダ〜』からすごく影響を受けていました。『リンダ〜』ではっちゃけ過ぎちゃったから、今回はちょっと暗黒面というか、本当は僕はこういう人間ですよっていう黒い部分を出そうと、向井康介(共同脚本)と二人でアイデアを出していったんです」
今回は、山下のその多面性こそが“二十代最後の傑作”として、本作を特別なものに押し上げているような気がする。対峙する双子の兄弟を主軸に、田舎町で生活する人々の善と悪、愛と憎悪、エロスとタナトスが、スクリーンの中を入れ替わり立ち替わり横切っていく。そこに青春の甘酸っぱさは皆無だが、連発される遠景には、バブル崩壊後から今も続いている現代のもの悲しささえも、リアルに映し出されている。
舞台は、九十年代初頭の田舎町・松ヶ根。二卵性双生児の弟・光太郎(新井浩文)は、警察官として働いている。兄の光(山中崇)は家族が経営する牛舎を手伝い、父の豊道(三浦友和)は家を出て行き、理容室の若い娘・春子(安藤玉恵)を妊娠させてしまったとの噂だ。母(キムラ緑子)はそれを知って“もう外を歩けない”と嘆いている。物語は光の起こした事件と、そこに現われた謎のカップル西岡(木村祐一)とみゆき(川越美和)の出現によって第一の展開をみせる。光はなぜカップルをかくまうのか、彼らは何のために松ヶ根にやってきたのか、春子の子どもの父親は本当に豊道なのか……? いくつかの謎と混乱が町を包み、目に見えるところと見えないところの両方で少しずつ、ゆるく、狂いはじめる。そのシリアスなドラマを得意の間合いとユーモアでみせるところが山下流であり、観客は乗せられて笑っているうちに、映画は水面下で進み、最後は、堰を切って溢れてきた結末を迎え入れる。どこまでが本気で、どこからがギャグなのか。誰が善人で悪人なのか。撮る側も観る側も分からないことを良しとして、だからこそ多面的で曖昧な人間のおかしみが浮かびあがってくる。
「今回は何に悩んだかというと、映画自体はフィクションで、笑ってもらいたいという気持ちはあるんだけど、笑いだけでは済ませたくない何かがあったということです。ある意味気持ち悪い話にもしたいと思っていて、そのさじ加減に悩んだし揺れていました。今までだったらここに山本浩司さんや山本剛史くんがいて、そのことによって最初から“ギャグです”と、観ている人も分かったと思うんですけど、今回は僕も初めての取り組みで、一見おもしろく見えるけど見方によっては怖い物語にも見えるかもしれないということをやってみたかったんです」
(この記事のつづきはSWITCH Vol.25 No.1 にて)
『松ヶ根乱射事件』
監督・脚本:山下敦弘
脚本:向井康介、佐藤久美子
出演:新井浩文、山中崇、木村祐一、川越美和、三浦友和
★07年2月テアトル新宿にて公開予定