SWITCH INTERVIEW with MIKA NINAGAWA
SWITCH INTERVIEW with MIKA NINAGAWA
女から観る『さくらん』の世界
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写真:蜷川実花 文:川口美保

江戸のきらびやかな吉原遊郭を舞台に、男と女が繰り広げる性愛と純愛の物語。安野モヨコの漫画を原作とし、写真家、蜷川実花が初監督となり挑んだこの映画は、いつの時代も変わらない、強くて弱い、悲しくも愛しい「女」の姿が描かれている。
蜷川実花にとってこの映画を撮ることで見えて来たことは何だったのか。写真家として、女として、今までの人生を投影した映画『さくらん』について語る。

 写真家、蜷川実花の事務所にある彼女の部屋には、江戸時代の浮世絵、美術画、風俗、服飾の資料本や写真集が床から高く積み上げられていた。気になった絵や資料はすべてコピーが取られ、スケッチブックに貼付けてある。そうしながら世界を幾重にもイメージ化していく。そのスケッチブックは蜷川の頭の中だ。

 二〇〇五年秋だった。本誌では親子特集を組み、その表紙巻頭で蜷川幸雄、蜷川実花親子を取り上げた。その取材で蜷川の事務所に行ったとき、蜷川が言った。

「実は今度、映画を撮ることになったの」

 父親が人生をかけて、表現し創作していく姿を子供の頃から見ていた彼女は、必然であったかのように自らも表現することを選び、写真家となって、すでに十二年目となっていた。そのインタビューで父親のことを話しながら、彼女が、写真、映画に向かっていく流れを思った。

 彼女はそのインタビューで、こう話していた。

「蜷川幸雄の娘で損してることもあるのかもしれないけれど、でもいいことの方が多いの。その中で一番よかったなって思えるのは、いろいろなことをやって、評価が前の評価よりも高くなってくると、人ってすごく簡単に勘違いして、傲慢になるじゃない? “私偉いんだ”とか“イケてるんだ”とか思ったり、自分に酔ったりするんだけど、やっぱりいろいろなことの基準値が父親になってるから、思いようがないのよ。本当に私なんかまだまだだなって、心底素直に思える基準値が自分の中に持ててるってことは、物を創っていく上で一番大きな財産かなと思っている」

 父親の有名性による世間の目は彼女をときに苦しめたが、だからこそ、彼女は自分が撮りたいものは何か、自分にしかできないものは何かに、嫌というほど向き合ってきた人である。その結果、彼女は写真家として成功していったが、しかし蜷川実花が本当に一生をかけてやっていくことは、「写真」という括りではなく、父同様に、もっと圧倒的なものを、もっと美しいものを、もっと人間的な深さを、そして狂気を、求め続け、表現していくことにあった。であるなら、今、映画を撮るという流れは、彼女に訪れた新しい必然だったのだろうと思った。

「そういう話になったということは、今、それをやれってことなんだろうね」

 彼女は気負いなくそう笑っていた。

女性作家の原作からはじまった

 そもそもの話は、映画配給会社からの提案だった。それまで彼女自身は「一度も映画を撮りたいと思ったことはなかった」という。

「蜷川さんで何か映画をやりたいと言ってきてくれたのが最初。なんか原作があるもので撮りたいものがあったら教えてくださいって言われたの。だから一年間くらい何かないかなって探していた。で、あ、『さくらん』がいいかもって思って、原作権調べてもらったら、まだ空いていたからすぐにやれることになって」

 漫画でも小説でも、原作はどういう形態のものでもよかった。ただ、蜷川がひとつどうしてもこだわっていたのは、それが「女性作家」であることだった。

「映画を私で、と言われたとき、そのことに対して、少しでも自分が得意なことを入れたいと思ったの。映画なんてやったこともないし、本当に自分にできるかどうかもわからなかったから、少しでも得意な要素を入れておきたくて、それだったら女性作家の方がシンクロしやすいかなと思って、そこは限定して探してた。『さくらん』ももちろん知ってたけど、安野(モヨコ)さんとは仲いいし、原作が好きすぎて、それを撮りたいっていうふうにはなかなか思えなかったんだよね。だから、一年くらいああでもないこうでもないってやってて」

「だって、初めての映画で、わざわざ大変そうな時代劇を選ぶ必要もないわけじゃない?」

 蜷川は苦笑する。

「しかも吉原ものだっていうのもあったから、どうかなあと。別に江戸時代の物語を撮りたいわけではなかった。ただ、やりたいと思ったのがたまたま時代劇で、一年経ってもやっぱり『さくらん』以外になくて、安野さんに私からこれを映画にしたいんです、と話した。

 でもまあ、そう思ってみて撮り終わってみると、これしかなかったんだなって思うくらい、得意な要素が最終的に詰め込めたと思うんだよね。やっぱり『さくらん』しかなかったなと思う。最初にやるのは」

この記事のつづきはSWITCH Vol.25 No.3 にて

『さくらん』(監督:蜷川実花、原作:安野モヨコ、脚本:タナダユキ、出演:土屋アンナ、椎名桔平、成宮寛貴、木村佳乃、菅野美穂、永瀬正敏 他、音楽:椎名林檎)は、二月二十四日より、渋谷シネクイント、新宿ジョイシネマ、シネ・リーブル池袋他、関東ロードショー、三月三日全国拡大公開。また、第五十七回ベルリン国際映画祭正式出点“特別招待”作品に決定。詳しくは、『さくらん』公式HP/www.sakuran-themovie.comまで。

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